札幌市では、家庭で不要になった水銀を含む製品を安全に回収し、適切にリサイクルする取り組みを進めています。水銀は有害物質である一方、適切に処理すれば貴重な資源として再利用できます。この記事では、水銀体温計・血圧計・温度計の正しい処分方法から環境への影響まで、詳しく解説します。

水銀回収の背景と重要性

水銀は神経毒性を持つ有害物質で、環境中に放出されると食物連鎖を通じて生物に蓄積する危険性があります。2013年に採択された「水銀に関する水俣条約」では、水銀の使用削減と適正管理が国際的に定められました。札幌市ではこの条約を受け、2015年度からモデル事業を開始し、現在は年間を通じた回収体制を整備しています。

専門用語解説:水俣条約
熊本県水俣市で発生した公害病を教訓に策定された国際条約。水銀の採掘から廃棄までを規制し、2020年までに特定製品の製造・輸出入を禁止しました。

回収対象となる製品

家庭で使用されていた以下の3種類が対象です:

  • 水銀体温計:ガラス管内に水銀を封入した旧式の体温計
  • 水銀血圧計:コロトコフ音を測定するアネロイド型の計器
  • 水銀温度計:実験用や気象観測用の精密温度計

対象外の例:デジタル体温計・電子血圧計・アルコール温度計は通常ごみとして処分可能です。

回収拠点と利用方法

札幌市内には10か所の回収拠点が設置されており、各区の清掃事務所やリサイクル施設で受付けています。主要な拠点の特徴を比較してみましょう:

中央清掃事務所(南区)

  • 住所:南区南30条西8丁目7-1
  • 受付時間:平日8:00~16:30(祝日は15:30まで)
  • 特徴:地下鉄南北線「真駒内駅」から徒歩10分、駐車場完備

リユースプラザ厚別(厚別区)

  • 住所:厚別東3条1丁目1-10
  • 受付時間:10:00~16:00(月曜・年末年始休)
  • 特徴:大型家具との同時持込み可能

リサイクルプラザ二十四軒サテライト(西区)

  • 住所:西区二十四軒4条1丁目5番JR高架下
  • 受付時間:10:00~16:00(月曜・年末年始休)
  • 特徴:JR琴似駅近くで交通アクセス良好

回収時の重要な注意点

  1. 梱包方法:製品を個別に新聞紙で包み、「水銀製品」と表示した袋に入れる
  2. 破損時の対応:割れた場合は密閉容器に入れ、すぐに回収拠点へ
  3. 事業所の取り扱い:医療機関や企業からは1日5本まで(超える場合は産業廃棄物扱い)
  4. 付属品の処理:ケースや収納箱は分別が必要(プラスチックは「容器包装」、布製は「資源ごみ」)

豆知識:1950年代の家庭用体温計には平均0.5gの水銀が使用されていました。現在の回収技術では1本から約0.3gの水銀を回収可能です。

水銀のリサイクル工程

回収された製品は次の5段階で処理されます:

  1. 破砕分離:専用装置でガラス・金属・水銀を物理的に分離
  2. 蒸留精製:300℃の真空環境で水銀を気化させ、高純度(99.99%)に精製
  3. ガラス再利用:粉砕後、道路標示材や断熱材の原料として再生
  4. 金属部品:アルミ枠は建材用インゴットに、銅線は電気部品へ
  5. 最終処分:不純物はコンクリート固化し、管理型処分場へ

環境への影響と社会貢献

2024年度の回収実績(約2,000本)から算出される効果:

  • 水銀回収量:1kg(体温計2,000本分)
  • CO2削減:従来の埋立処理に比べ85%削減
  • 資源節約:新規水銀採掘量を1.5トン抑制

歴史的雑学:江戸時代の日本では「朱肉の保存剤」として水銀が使われていました。明治期に体温計製造が始まり、1970年代まで家庭で広く使用されていた歴史があります。

よくある疑問と解決策

Q. 壊れた水銀体温計を触ってしまったら?
A. 窓を開け換気し、手袋で破片を回収。硫黄粉を撒くと水銀が固化し安全に処理できます。

Q. 昭和初期のアンティーク体温計も回収可能?
A. はい。ただしガラスが変色したものは水銀のみ回収し、ガラス部分は破砕処理されます。

Q. 遠方で持込困難な場合の対応は?
A. 環境局へ相談(011-211-2879)。障害者や高齢者には訪問回収サービスがあります。

市民参加の意義と今後

札幌市の取り組みは、国際条約の履行だけでなく、地域の環境意識向上に貢献しています。回収された水銀は歯科用アマルガムや測定機器の材料として再利用され、完全な資源循環が実現されています。

今後の課題はデジタル化で減少する水銀製品の回収量維持です。2025年度からは学校での環境教育プログラムを拡充し、次世代への啓発を強化する方針です。

回収拠点検索札幌市水銀製品回収マップ
問い合わせ先:環境局廃棄物処理部 011-211-2879(平日8:45~17:15)

家庭の引き出しに眠る水銀製品が、未来の環境を守る資源へと生まれ変わります。ぜひ最寄りの回収拠点を活用し、持続可能な社会づくりに参加しましょう。