海洋プラスチック問題や気候変動への対応が急務となる中、札幌市は2022年4月施行の「プラスチック資源循環促進法」に基づき、画期的なリサイクル施策を推進しています。これまでの容器包装プラスチックに加え、新たに製品プラスチックの本格的な分別回収に向けた実証実験が行われました。その詳細と今後の展望を解説します。
法制度の背景と基本概念
プラスチック資源循環促進法は、海洋汚染や廃棄物輸出規制強化を受けて制定されました。従来の「容器包装リサイクル法」との大きな違いは、食品トレイなどの「容器包装」だけでなく、製品そのものに使用されるプラスチック(製品プラスチック)の回収を義務付けた点です。
専門用語解説
- 製品プラスチック:家電製品、文具、日用品など製品本体に使用されるプラスチック(例:ハンガー、洗面器)
- 容器包装プラスチック:商品を包む・運ぶためのプラスチック(例:レジ袋、食品トレイ)
実証実験の具体的な取り組み
第1弾:厚別区モデル(2023年10月)
- 対象地域:厚別東地区約2,000世帯
- 対象品目:20品目限定(衣装ケース・プランター等)
- 回収方法:専用回収袋を使用し、厚別地区リサイクルセンターへ持ち込み
成果:
- 回収量:1.8トン(世帯あたり平均0.9kg)
- 課題:回収拠点へのアクセス不便さが参加率低下の要因
第2弾:西区モデル(2024年7-9月)
- 対象地域:二十四軒・八軒東地区約6,000世帯
- 対象品目:全製品プラスチック(50cm超・金属含有率高い製品を除く)
- 回収方法:透明/半透明袋使用、西地区リサイクルセンターへ搬入
改善点:
- 期間を3ヶ月に延長
- 回収品目を無制限に拡大
- 回収量:5.2トン(世帯あたり平均0.87kg)
技術的課題と解決策
選別工程の難しさ
製品プラスチックは樹脂種類が多様(PP・PE・PS等)で、自動選別機の精度が課題。西区モデルでは赤外線分光器を導入し、樹脂判別精度を85%から92%に改善しました。
コスト分析
- 回収コスト:1kgあたり平均120円(容器包装プラの3倍)
- 再商品化コスト:1kgあたり80円(再生樹脂の市場価格は1kg250円)
市民協力の重要性
参加のポイント:
- 洗浄の徹底:食品残渣があると再生品質が低下
- 金属部品の除去:ハンガーのフックは手作業で外す
- サイズ調整:50cm超の製品は分解が必要
驚きの事実:
札幌市の年間プラスチックごみ排出量は約8万トン。このうち製品プラスチックが占める割合は37%で、容器包装プラを上回っています。
世界の動向と比較
ドイツ・デュアルシステムとの比較:
項目 | 札幌市 | デュアルシステム |
---|---|---|
回収率 | 23% | 58% |
再商品化率 | 45% | 89% |
市民負担 | 無料 | 1kgあたり0.5ユーロ |
今後のロードマップ
- 2025年度:中央区・南区で拠点回収拡大
- 2026年度:全市展開に向けた自動回収ボックス実証
- 2027年度:製品プラマーク表示制度の導入
注目技術:
化学リサイクル実証プラントを手稲区に建設予定。混合プラスチックを油化する技術で、2030年までに処理能力5万トン/年を目指します。
環境貢献の具体例
家庭で製品プラスチック5kgをリサイクルすると:
- CO2削減:12.5kg(杉の木1本の月間吸収量)
- 石油節約:3.8リットル(軽自動車の10km走行分)
- 海洋汚染防止:ペットボトル500本分のプラごみを削減
札幌市の挑戦は、単なるごみ処理の枠を超えた「資源循環革命」です。製品プラスチックの分別が、やがては持続可能な街づくりの基盤となります。まずは自宅のプラスチック製品を見直すことから、環境保護への第一歩を踏み出しましょう。
問い合わせ先
札幌市環境局資源循環課:011-211-2879
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